華岡青洲先生をご存じでしょうか?徳善堂においでになったお客様はその名前を目にされたことがあることでしょう。有吉佐和子さんの小説『華岡青洲の妻』は有名で、映画にもなっています。この華岡青洲先生(1760年〜1835年)は和歌山から30kmも離れた高野山の麓(現在の那賀郡那賀町)に「春林軒」という病院を造った医師です。麻酔薬を創り、犬に対する効果を確認し、自ら申し出た妻・母に対する人体実験で実績をあげ、1804年に世界初の全身麻酔を用いた乳がんの手術に成功したのです。この麻酔薬、通仙散という処方はクロロホルムやエーテル麻酔の登場までのおよそ90年にわたり国内で使われることになります。
華岡青洲先生が麻酔薬の重要性を認識してから乳がん摘出手術までおよそ20年の歳月が流れていました。この長い歳月を支えた青洲先生の思いは、自分の「春林軒塾」を巣立ってゆく弟子の一人一人に、免状とともに与えた自画像に添えられた自作の漢詩から窺うことが出来ます。その漢詩の意味するところは、非常に粗末な家に住み、烏や雀が喧しく鳴き、周囲の風景は、自然とこの寂しい村に住む心境に適している。 そうした日々の中で何を想うかといえば、それは唯、起死回生の術、患者のことばかりである。その他のことは一切何も望まない。贅沢な着物を着ることも。肥えた馬に乗ることも。(意訳:華岡青洲の里)
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